「旅をする木」〜地杉精油の故郷•屋久島をたずねて〜

東京でも桜の開花が始まった3月末、まとまったお休みを頂き、屋久島を訪ねました。

 

目的は、この地で作られている杉のアロマ「屋久島地杉精油」について深く知るため。

 

この精油については、昨年末に手にする機会があり、その香りの良さは知っていたのですが、まだまだ研究•開発段階の精油でもあり、サロンで活用するために、ぜひもっと詳しく知りたい…とずっと温めていた旅でした

 

鹿児島空港から小さなプロペラ機で30分ほど、夕暮れ近く、森に覆われた島影が近づいてきた時、これまでいくつか訪れた沖縄の離島とは明らかに違う…

「ここは“森の島”なのだ」とひとめで感じました。

 

 

森の島へ訪れたきっかけ

かれこれ3年前、私は和ハーブ協会主催の薬草を現地に訪ねるツアーに参加し、そこで名古屋にほど近い、和精油のみを使った全国でもまだ珍しいサロンのアロマセラピストさんと出会いました。

 

感性が豊かで、そして和のアロマに関する知識も情熱も高いその方は、その後ご縁を経て屋久島へ移住し、島の特産である地杉のアロマ生産の取り組み、そしてサロンのオープン。
その移住〜オープン、その後の活動の様子をSNSでずっと拝見しては、いつか、そう遠くないうちに、行きたい、行かねば!と思っていました。

 

そんなおり、ご縁のある名古屋のセラピストさんたちの現地ツアーに合わせて、ご一緒にいかがですか?とお誘い頂いた時には、「この時が来た!」と。
普段、他の和のアロマセラピストさんと現場でご一緒できる機会はなかなかないので、今しかないと思い参加することに決めました。

 

精油の故郷の森へ

 

到着翌日、セラピストの皆さんと合流し、訪れたのは、

島のかおりラボ やわら香」さん。

 

このラボは、精油生産の拠点でもあり、生産したアロマや関連商品を購入できるショップ、フットマッサージを受けられるコーナー、そして少し離れた高台に、本格的なアロマトリートメントを受ける事ができるスパ、から成り立っています。

 

 

 

ラボ見学の前に、まずは、車で南下する事約1時間くらい、

島の南東、麦生地区にある、精油の原料となる森へ。

 

そもそも、「地杉」って何?という所から、今回の研修がスタート。
いわゆる「屋久杉」とは、島内で標高500m以上の山地に自生する樹齢が1000年以上過ぎたものを指し、もちろん伐採はできません。

 

対して「地杉」は、ヒトの手で植林されてきた杉を指しますが、しかしそのDNAは屋久杉を受け継いでおり、さらに研究の結果、本州の杉とは明らかに違う特性成分(ヒトや空間への有効性)を持っているということがわかっています。

そしてここでアロマに使われるのは、この植林された森から出る間伐材。

日本各地ではいま、後継者がいない等の問題で手入れがなされず、こうした「間引き」を適切な時期に行わないため、木の生育状態を良好に保てず、結果森全体がだめになってしまうことがあります。

 

やわら香さんでは、「精油つくりは森つくり」と言っています。
森を保つ事、香りの原料を確保する事、この二つがこの間伐によってなされているのです。

 

 

クスノキの仲間、アオモジの苗
クスノキの仲間、アオモジの苗

また今回勉強になったのは、屋久島が世界に認められたのは、杉の長寿というだけでなく、その豊かな照葉樹林が現存している事に対して、だということ。

 

それはすなわち葉が落ちる事で、豊かで根が張りやすい土壌に保たれることを意味します。

今回訪れた森は、かつてはその照葉樹林が燃料のため伐採され、その後針葉樹である杉の植林、そしてその杉の伐採後である一部のエリアには、再び照葉樹の苗が植えられていました。

何世代かにわたる地道な計画によって、かつての豊かな森に自然に帰していく、
長いスパンでの取り組みが、自治体を含めた様々な協力者のもとなされています。

 

 

 

森とひとをつなく拠点 ラボ&サロン

ラボでは、精油の水蒸気蒸留の様子を見学させて頂きました。

すぐ近くには伐採後の杉を保管し、住宅など建材として加工する現場もあり、
原料についての確かさ、追跡性(トレーサビリティ)も明確です。

興味深いのは、幹の部分と、枝葉の部分では、抽出される香りがかなり異なります。

もちろん、その有効成分の特性も違い、それぞれが非常に魅力的な効果をもっています。

 

何より、香りがどちらも捨てがたい!
これまでサロンで使っていた本州で抽出された杉のアロマとも、明らかに香りが違います。
どちらがいい、悪いではもちろんなく、より香りのバリエーションも広がる感覚です。

 

ユーザーさんが好みで選ぶのもいいですし、アロマセラピストならその効能も含め、施術のブレンディングにぜひ使いこなしていきたい、と思わせられました。

 

その他、まだ商品化されていない、島特産の柑橘や杉以外の植物の香りもいくつかサンプルされ、今後の展開がとても楽しみです。

 

 

そしてとても楽しみにしていた、旅の集大成。

 

帰京の前日には、今回この島を訪れるきっかけとなったセラピストさんの、トリートメントをスパにて受ける事が出来ました。

建材やインテリアにも、地杉がふんだんに使われて、独特の木目の特徴も感じる事ができます。

 

地杉精油が育てられ、アロマに生まれ変わり、実際にひとのカラダとココロに届く、、

この一連の流れがひとつの場所で体験できる、数少ない、和のアロマサロンの理想のかたちとして、訪れるひとに、島の恵みをまるごと届けてくれる場所でした。

島に豊富にある火山の石をあたためて使う、ホットストーントリートメントで、中身の濃かった旅の疲れと、それ以前の都会の暮らしで枯れていた「氣」がチャージされ、帰京後も、元気に次の活動に移れたと思います。

 

実際に島に移り住み、島のリズムで暮らす彼女の想いを聞く時間ももつことができ、とても心地いい時間が流れていきました。

 

 

旅に出る木=屋久島地杉の精油 

 

 

今回この旅の直前、偶然出会い、

滞在中もおおいにインスピレーションを与えてくれた一冊の本があります。

 

星野道夫「旅をする木」(文春文庫)

 

アラスカを中心に活動し不慮のアクシデントで急逝した冒険写真家が、その大自然で暮らす中で綴ったエッセイなのですが、

 

その中に、彼が過去の書物からとりあげたこんなエピソードがあります。

 

 

 

その昔、「トウヒ」という木の種子が、

ついばんだ鳥のきまぐれによって、川に落とされ、

流れ着いた河岸で大木に生長します。

 

しかし長い年月を経てその河岸は川に浸食され、とうとう倒された大木は、

押し流され、川へ、そしてとうとう海へと流されます。

 

北へ北へと流れて、ついには極寒のツンドラ地帯にたどり着き、

何も生えない大地でランドマーク的な存在になり、

キツネがマーキングの為にやってくる場所となります。

 

そしてそのキツネを追ってきたエスキモーによってこの大木が発見され、

最期は寒い北の大地で貴重なストーブの薪となり、

燃やされ、その命を全うします。

 

そして燃え尽き大気中に分子として拡散していくところから、

また新たな生命に生まれ変わり、
再び旅が始まる…

 

というストーリー。

 

輪廻転生の思想が比較的根付いている日本に暮らす私たちには、ごくイメージしやすい【いのちの循環】のストーリーですが、

 


ここで面白いのは、場所を変えずに、たとえば縄文杉のように何千年もの時を経てもその場で茂り続けている木もあれば、

 


よりダイナミックな自然のエネルギーにより(この場合は川が大木を海へと押し流し、何千キロ旅をして、未知の土地にたどりつく)

旅をするように、新しい場所へたどり着き、その地で寿命をまっとうし、また新たに生まれ変わる…そんな命もある、ということ。

 

 

屋久島地杉が、ヒトの手によって「アロマ」という形に生まれ変わり、

現地を訪れたことのない、例えば都会に暮らす私たちの手元に届く事によって、
また新しい可能性、ストーリーが生まれて、展開していく。

 

これは、もうひとつの「旅をする木」といえるのではないか、と思うのです。

 

 

 

生産過程において、「循環」や「次の世代」の事までをきちんと考えられた地杉の森には、大きな価値があると思います。

 

しかし環境問題とは、スケールの大きな視野が必要で、私も含め消費者生活に慣れた都市に暮らす人々とっては、頭ではわかっていても、なかなか具体的に取り組むには時にハードルが高く感じられます。

その関心を引き出すきっかけとなるツールが、こういったアロマであっていいのではないか。

現地のスタッフの方からの言葉はおおいに共感できるものでした。

 

このアロマを知る一番最初のきっかけが、遠く離れた地のサロンやショップで、「いい香りだな」「安らぐなあ」といった、手に取った方のごくパーソナルな感覚へ働きかけ、それをきっかけに新しい何かが生まれて、それが島への、さらに森、環境への関心となる。
それもこの杉の木の素晴らしい終着点ではないでしょうか。

 

 

翌日に訪れた白谷雲水峡にて。今回の旅で同行させて頂いた、セラピストKさまが撮影して下さいました素敵な1枚です。ありがとうございました。
翌日に訪れた白谷雲水峡にて。今回の旅で同行させて頂いた、セラピストKさまが撮影して下さいました素敵な1枚です。ありがとうございました。

 

先に述べた通り、屋久島産の地杉は、研究機関での成分の結果、本州の杉とはかなり違う特色をもっていることがわかってきているそうです。

また精油だけでなく、その過程で出る副産物(チップや蒸留過程でうまれる液体)も、これまでにない有効活用が、このラボでは試みられています。

 

サロンでは、トリートメントでこの精油を使っていくことはもちろん、今回持ち帰ったインフォメーションを、他のユーザーの方にもぜひお伝えすることで、その精油の旅の、もうひとつの新しいスタートのひとつの拠点となれたら、とても嬉しく思っています。

 

そして、また時をあらためて島に訪れ、その森林の循環の営みや、今回は訪れる事のできなかった縄文杉など、悠久の時を経た杉たちにも、ぜひ会いに戻ってきたいと思います。

 

 

 

 

 

最後に、今回終始に渡り大変お世話になりました、

「やわら香」セラピスト渡辺様をはじめ、スタッフのみなさま、

ツアーにご一緒させて頂いた和のアロマ教室「風香」ご一行の皆様に、感謝申し上げます。
ありがとうございました!

 

訪問先;

株式会社 やわら香

http://yawaraca.jp/

 

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